中国環境規制レポート 2024 年 No.1

 中国では 2024 年に入り、第 14 次五ヵ年計画で定められた環境目標の一部の中期達成状況が悪いことが判明した。これを受けて中国政府は、残りの 1 年半、対策をより強化する方針を打ち出した。また設備更新・消費財買い替え方針で環境・脱炭素分野の基準・規範を大量に制改定する方針を打ち出した。これに伴い、企業は法令政策等情報収集をしっかり行い、戦略的対応が必要となる見込みである。

■環境・脱炭素分野の成績が芳しくないため、更なる強化方針を打ち出す

 第 14 次五ヵ年計画(2021~2025 年)で定められた主な 2025 年環境目標には、エネ消費原単位 13.5%削減(2020 年比)、CO2 排出原単位 18%削減(2020 年比)、非化石エネ割合 20%(2020 年比 4.1 ポイント増)、主要汚染物排出量削減で 2 項目 8%と 2 項目 10%(2020 年比)がある。

 しかし、2024 年に公表された年次統計年報環境公報環境統計年報によると、これら環境目標の中期達成状況は芳しくなかった。特にエネ消費原単位削減は 3 年合計約 3.3%、CO2 排出原単位削減は3 年合計約 4.6%で、2 項目とも 5 年目標の半分を大きく下回った。非化石エネ割合は 2023 年で 17.9%となり、年次ペースからすると遅くなっている。他にも、都市大気環境優良日数割合や全国 PM2.5 濃度改善など頭打ちになっている項目もある。

 これに危機感を抱いた中国政府は、残りの 1 年半で環境・脱炭素対策をより強化して、目標達成に近づける方針を出した。国務院が 5 月 29 日に『2024~2025 年省エネ・脱炭素行動方案』を公布して以降、国務院、国家発展改革委、生態環境省などが重量級の環境政策文書を次々と公布し、制度の制改定を進めていくとした。以下に、8 月までの重量級環境政策文書を示す。

国務院『2024~2025 年省エネ・脱炭素行動方案』(5 月 29 日)
・2024 年:エネ消費原単位 2.5%減、CO2 排出原単位 3.9%減、非化石エネ割合 18.9%、エネ削減 5000
万 t、CO2 で 1.3 億 t 削減
・2025 年:非化石エネ割合 20%、エネ削減 5000 万 t、CO2 で 1.3 億 t 削減
https://www.gov.cn/zhengce/content/202405/content_6954322.htm
生態環境省、国家発展改革委、工業・情報化省等
『カーボンフットプリント管理体系構築に関する実施方案』(6 月 4 日)
・製品カーボンフットプリント制度を段階的に構築していく
https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk03/202406/t20240604_1074986.html
国家発展改革委、国家エネルギー局
『石炭火力発電低炭素化改造建設行動方案(2024~2027 年)』(7 月 15 日)
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202407/t20240715_1391665.html
国家発展改革委、国家エネルギー局総合司
『2024 年再エネ電力導入量割当(RPS)関連事項に関する通達』(8 月 2 日)
・個別企業向け RPS 方針を初めて示した
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202408/t20240802_1392178.html
国務院『GHG 排出二重規制(総量+原単位)制度体系構築加速事業方案』(8 月 2 日)
・今まで国が重視していたエネ消費総量+原単位二重規制を GHG 排出総量+原単位二重規制に徐々
に転換していく
https://www.gov.cn/zhengce/content/202408/content_6966079.htm
国家発展改革委、国家市場監督管理総局、生態環境省
『GHG ピークアウト・カーボンニュートラル基準計量体系構築の更なる強化の行動方案(2024~
2025 年)』(8 月 8 日)
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202408/t20240808_1392292.html
中国共産党中央委、国務院『経済社会発展の全面的グリーン転換の加速に関する意見』(8 月 11 日)
https://www.gov.cn/zhengce/202408/content_6967665.htm

■大規模設備更新政策で、環境・脱炭素分野の基準・規範も大量に改定へ

 一方、国務院が 3 月に『大規模設備更新・消費財買い替え推進行動方案』を公布して以降、追加の政策、各省庁バージョン、各地方バージョンの行動方案が続々と公布されている。この政策には、環境・脱炭素分野も含まれており、環境・脱炭素分野の基準の制改定予定がリスト化されている。

 中でも、国家市場監督管理総局、生態環境省、国家発展改革委等が 4 月に公開した『基準の向上による設備更新・消費財買い替え牽引行動方案』では、2024 年と 2025 年に制改定に着手する重点国家基準リストが含まれているが、この中にも環境・脱炭素分野の内容が多い。その主なものは次の通り。

2024 年制改定に着手する重点国家基準リスト(環境・脱炭素分野の一部)
省エネ技術評価ガイドライン(改定)
変圧器 エネ効率規制値・等級(改定)
生活ゴミ埋立場汚染抑制基準(改定)
GHG 排出算定・報告書要求 化繊生産企業(制定)
GHG 排出算定・報告書要求 塗料生産企業(制定)
製品カーボンフットプリント(CFP) 定量化要求・ガイドライン(制定)
家具中の有害物質規制値(改定)
電工電子製品エコデザイン用語(改定)
車載動力用電池回収利用 適用要求(制定)
プラスチック 再生プラスチックのラベル・表示(制定)
プラスチック 再生プラスチック 使用制限物質制限量要求(制定)
2025 年制改定に着手する重点国家基準リスト(環境・脱炭素分野の一部)
工業ボイラ総合エネ消費評価技術規範(制定)
パソコン エネ効率規制値・等級(制定)
食洗器 エネ効率規制値・等級(改定)
固形廃棄物鑑別基準 通則(改定)
GHG 排出算定・報告書要求 日用セラミック企業(制定)
製品 CFP 製品種類規則 エアコン(制定)
照明製品 CFP 算定方法(制定)
電子電器製品 CFP 定量化要求・ガイドライン(制定)
建材製品脱炭素量評価方法(制定)
内燃機関全ライフサイクル GHG 排出算定技術規範(制定)
プラスチック製品 CFP 算定通則(制定)
製品 CFP 定量化方法 化学繊維製品(制定)
乗用車燃費規制値(改定)
道路車両 GHG 管理汎用要求 第 2 部:製品 CFP ラベル(制定)
塗料中の有害物質規制値 第 1 部 建築塗料(改定)
プラスチック リサイクル設計ガイドライン PET 及び HDPE(制定)
廃車回収部品利用汎用技術規範(制定)
家電用廃棄リチウムイオン電池解体回収規範(制定)
プラスチック 再生プラ PMMA、PPE

 リストアップされた環境・脱炭素分野の基準・規範は、すでに公布されたもの、パブコメ募集段階に入ったものなどがある。

 『基準の向上による設備更新・消費財買い替え牽引行動方案』は地方版も続々と出ており、地方基準計画が盛り込まれている。例えば

上海市版では大気汚染総合排出基準、製薬・鉄鋼・印刷・塗料等産業の大気汚染排出基準、設備漏洩 VOC排出規制基準、工業ボイラ環境管理要求等が盛り込まれ、

江蘇省版ではガラス・ゴム・製紙等産業の汚染排出基準、クリーナープロダクション審査項目体系(電力、製紙、メッキ、鋳造、自動車塗装等)、風力発電リサイクル汚染抑制技術規範等が盛り込まれ、

広東省版では自動車修理・飲食業・ガラス・セメント・工業炉等産業の大気汚染排出基準、家具・表面塗装・印刷等産業 VOC 排出基準(改定)、工業固形廃棄物管理技術規範、自動車工場 GHG 排出算定技術規範、自動車工場炭素中立実施ガイドライン、製品 CFP エアコン、GHG 排出モニタリング・計量・抑制システム技術規範、グリーンブランド構築規範、危険化学品保管装置安全使用技術規範、車載動力用電池回収利用汎用基準、セラミック製品グリーン製造基準、電器電子製品部品グリーン設計規範等が盛り込まれている。

 これらはあくまで一例であり、設備更新政策の枠組み以外でも、環境・脱炭素分野の基準・規範の制改定が続いている。今後も、国家レベル、地方レベルで環境・脱炭素分野の基準・規範が大きく変わることに注目する必要がある。

■今後さらに重要となる在中企業の環境・脱炭素対応

現在の第 14 次五ヵ年計画でも、環境・脱炭素政策は大きく変わりつつある。工業廃棄物管理制度、騒音防止制度、企業環境情報開示制度、VOC 排出規制に加え、省エネ・脱炭素・電力グリーン化やサプライチェーン・全ライフサイクルでの環境対応が大きな課題となっていた。2024 年に入り、環境・脱炭素分野の基準・規範の改革をテコとした設備更新・消費財買い替え、2025 年までの五ヵ年目標達成のためのラストスパート、さらに地方財政改善のため行政処罰の罰金を増やす傾向にあるなど、環境・脱炭素分野をめぐる企業情勢は厳しく流動的となっている。このため、在中企業は環境・脱炭素規制について、情報収集を怠らず、法令順守を心掛け、戦略的に対応することが、さらに重要となってきている。

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